今回は、『認知症の症状と種類の特徴は?妄想や問題行動への対応方法も』というタイトルでお送りします。
以前は、会話にならないような状態の物忘れが激しい人のことなどを「痴呆」とか「ボケ」などと言っていました。
その言葉の持つイメージは本当に失礼で、言われた本人だけでなくその家族もとてもプライドが傷ついたものです。
家族にそのような高齢者がいたら、家族は恥ずかしいなどという理由でなかなか病院などに受診しようとせず、早期発見や治療を受けられずに症状を深刻化させてしまうことも多かったのです。
このようなひどい言い方は止めましょうということで、厚生労働省が用語検討会を開き結果的に平成16年(2004年)ごろより痴呆から「認知症」へと言い換えられるようになりました。
今回はそんな認知症について説明していきたいと思います。
認知症とは?
認知症の症状について説明する前に、まず認知症について紹介していきます。
認知症というのは、特に何も問題なく正常に発達した脳に、何らかの原因で記憶や判断力などの障害が起きて、日常生活に支障をきたす病的な状態のことを言います。
単なる物忘れなどとは違い、脳の病気なのです。
認知症の症状と種類の特徴は?
では、認知症になったら最初はどのような症状が出てくるのでしょうか?
認知症の初期症状は?
認知症の初期症状としては次にような症状があります。
- 何度も同じことを言ったり聞いたりする
- 物をどこに置いたのか、どこにしまったのかを忘れる
- 水道を出しっぱなしにするなどが目立つ
- 人や物の名前が出てこない
- ちょっとしたことで怒ったりする
- これまでに行なっていた日課や趣味などに興味がなくなっている
などの症状が出てきます。
これらの症状は特に大きな変化でもないため、家族も気が付かないまま経過していることが多いです。
では次に、認知症の主な症状を説明します。
中核症状と周辺症状について
認知症の症状には次の2つの症状があります。
- 中核症状
- 周辺症状
です。
順番に説明していきます。
中核症状
脳の障害そのものが引き起こす症状のことを言います。
この中核症状は認知症になると必ず現れる症状です。
主に次のような症状があります。
記憶障害 | 最近あった出来事や記憶、行動などを忘れる |
見当識障害 | 現在の日付、場所や人物などがわからない |
失認 | 品物などが何であるのかわからない |
失語 | 人や物の名前など言葉が出てこない |
失行 | 洋服の着方や物の使い方などがわからない |
実行機能障害 | 物事をする時の段取りや計画、予定が立てられない |
周辺症状
周辺症状とは、環境の変化や身体の状況、また介護をする側の関わり方などが関係して起こる症状のことです。
周囲の人の接し方によってひどくもなるし良くもなります。
主に次のような症状があります。
妄想 | 財布や物などが盗まれたなどという「もの盗られ妄想」など |
幻覚 | 幻聴、幻視など現実には起こっていないものが見えたり聞こえたりする |
不安・依存 | 1人では不安で落ち着かなくなる |
徘徊 | 目的もなく、道をウロウロしてしまう |
抑うつ | 意欲低下、落ち込んで何もしたくなくなる |
暴言・暴力 | 少しでも何か引っかかったりすると大声で怒鳴ったり暴力を振るう |
介護拒否 | トイレ誘導や入浴介助などの拒否、着替えも抵抗する |
異食 | 衣類など食べられないものを口にする |
不眠 | 夜間不眠になり、日中にウトウトしてしまう |
では次に、認知症の種類について説明していきます。
認知症の種類と特徴は?
認知症の種類には次のようなものがあります。
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭葉側頭葉変性症
これら4つの種類について、その特徴を順番に説明していきます。
アルツハイマー型認知症
全部の認知症の半数以上を占める代表的なものがアルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβタンパクという物質が沈着することによって脳内の神経細胞が壊死することによって起こります。
そして、記憶に関する海馬や側頭葉の後部の萎縮が見られます。
特徴として、徐々に進行していくので早期治療によって進行を遅らせることが可能です。
アルツハイマー型認知症は進行していくと次のような経過をたどります。
軽度 | 記憶障害が主で、物事に対する慎重さや注意不足などが出ます。 |
中等度 | 記憶障害は明らかで、人の言っていることが理解できなくなります。この時期特徴的なのは、異常行動や精神症状(妄想・不穏・うつなど)です。 |
重度 | 運動機能の著しい低下により、尿失禁などの症状が出ます。全身的な衰弱があるため、様々な病気にかかりやすくなります。 |
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血など脳の疾患が起こって細胞が壊れてしまうため、脳機能が低下していくことによって起こる認知症です。
特徴的なものとして、
- 感情コントロールが難しくなる感情失禁
- めまいや言語障害、麻痺などの症状
これらの症状が出ますが、症状の出方には個人差があるようです。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞内にレビー小体という異常なタンパクが溜まり、脳の神経細胞が徐々に減っていく進行性の病気です。
特徴的な症状として、病気の初期の頃から幻視が多く見られることです。
また、経過と共に方向感覚がわからなくなったり、歩行や動作が緩慢(かんまん・鈍くなる)になったりします。
前頭葉側頭葉変性症
前頭葉側頭葉変性症とは、前頭葉や側頭葉の萎縮が見られる病気です。
記憶障害というより、人格や情緒面の変化、判断力の低下などが見られます。
記憶は比較的保たれますが、無遠慮な振る舞いや行動の制御が難しくなります。
進行すると失語(しつご・言葉が出なくなる)が目立ちます。
そして、同じ時間に同じような場所を何度も歩いたりといった行動も見受けられ、コミュニケーションの能力も失い、更には身体的機能も低下して全身が衰弱していくこともあります。
以上の4つの種類に分けられます。
では、認知症の症状である妄想など問題行動についてはどんな対応方法があるのでしょうか?
認知症の症状である妄想など問題行動への対応方法は?
まずは妄想とその対応方法について説明していきましょう。
認知症の症状である妄想とはどんなもの?
妄想というのは、事実でない事柄を事実であると考え、周りの人が否定しても全く聞く耳を持たないような誤った認識のことを言います。
私達も時に軽い要望を話して「妄想」と表現してみたりすることがありますよね。
でもそれは空想にも似た妄想です。
しかし、認知症で起こる妄想は、事実でないことを強く確信して、そのことで日常生活に支障を来すような病的な妄想です。
認知症の症状として現れる妄想は「物取られ妄想」と言われるものです。
例えば、患者さんが自分で大切な物やお金をどこかにしまい込んで、それを忘れてしまい、一番近い家族が盗んだのだと思い込み、それが事実だと認識してしまうというようなことです。
患者さんは自尊心があるので、「自分が失くした」とは思わず、「家族の誰かが盗んだ」という妄想が膨れ上がりそれが事実であると認識します。
家族を傷つけたいとか特別な感情があって、家族を悪者扱いにしているわけではありません。
患者さんの中では盗まれたことが事実なので、それを否定されると家族みんなが自分だけを嘘つきだとか仲間はずれにするなどと言って怒ったり興奮したりしてしまいます。
妄想への対応方法は?
物取られ妄想で、犯人にされたのが家族であればその家族はとても傷つきます。
患者さんはもし頭ごなしに否定や訂正をされれば、「自分が受け入れられていない」と感じて、防衛反応として怒ったり興奮状態になったりします。
対応方法としては、冷静になり患者さんの言い分を否定も肯定もせず対応しましょう。
例えば、
「それは困りましたね、じゃ、どこにあるのか一緒に探しましょう」
などと言って実際に探してみましょう。
ただ、この物取られ妄想は繰り返すことが多いので、時に専門医などの受診が必要になります。
次に妄想の症状以外の問題行動と対応方法についてです。
認知症の症状である問題行動と対応方法は?
次にあげる3点の問題行動とその対応方法を説明していきましょう。
- 徘徊(はいかい)
- 家族への暴言
- 介護拒否
ではまずは徘徊からです。
徘徊(はいかい)の対応方法
徘徊とは、自宅の部屋の配置がわからずウロウロしてしまったり、買い物や散歩に行って迷子になってしまったりする状態です。
自宅内であれば、部屋のドアに絵を書いたものをぶら下げてみたり、目印があると判断しやすくなります。
もし、外出先で迷子になる可能性があれば、かばんに携帯電話やGPS機能のある物を入れておいたり、衣服に名前と住所を書いた布を貼り付けておくなどの対策があります。
迷子になったときに大丈夫なようにしておくと安心です。
ただ、認知症状が強い状態で1人で外出してしまうのは不安ですよね。
でも、患者さんを外に出さないようにするのは難しいことです。
例えば、患者さんが出ようとする直前にお茶を勧めてみたり、なにか別のことを勧めるなどして出たがる気持ちをそらせてあげることも良い方法でしょう。
ただ、1人で外出しないように見張っておいたりすると、患者さんも家族にもストレスがかかります。
時には一緒に外出し、「花がきれいに咲いていますね」とか「今日は暖かくて気持ちいいですね」などといった言葉がけをしてみると、気分良く散歩を済ませ帰宅してくれることがあります。
患者さんの欲求を満たしてあげることで、家族のストレスも軽減されることもあるのです。
次は家族への暴言です。
家族への暴言の対応方法
家族や介護者が親切や思いやりで言った一言が患者さんに伝わらず、自分への攻撃と認識してしまって、自分を守るために相手を攻撃します。
ちょっとしたことで声を荒げて、暴言を吐いたりします。
そんな時には、まずは落ち着いてもらうことです。
攻撃した相手ではない第三者などに間に入ってもらって、一旦冷静になれる環境を作るのもいいでしょう。
なぜ嫌だったのか、怒ったのかなど落ち着いて尋ねてみたり、「それが嫌だったんですね」とか、「気分を害されたのですね」などど気分を受け入れてあげます。
最後に介護に対する拒否についてです。
介護拒否の対応方法
患者さんは「お風呂は入りません」とか「洋服はもう着替えています」などと、強い拒否を示すことがあります。
そんな時には、
「早く、お風呂に入ってください!」とか
「着替えないと、汚いでしょ!早くして!」
などと言うと逆効果です。
命令口調はいけませんし、しつこく誘うのも止めましょう。
なぜ嫌なのかを落ち着いて聞いたりして、一旦気をそらしてから又別の言い方で誘ってみましょう。
例えば、
「今日はこんな入浴剤を入れてみましたよ、温泉みたいで気持ちいいから入りましょうね」
とか
「汗をたくさんかきましたね、別のものに着替えましょうか?」などと穏やかな口調で言ってみましょう。
認知症の症状と種類の特徴などについてのまとめ
今回は認知症症状と種類の特徴などについて説明してきました。
では、まとめてみましょう。
初期症状として
- 何度も同じことを言ったり聞いたりする
- 物をどこに置いたのか、どこにしまったのかを忘れる
- 水道を出しっぱなしにするなどが目立つ
- 人や物の名前が出てこない
- ちょっとしたことで怒ったりする
- これまでに行なっていた日課や趣味などに興味がなくなっている
などが初期症状であり、認知症になってしまうと、
中核症状として
記憶障害・見当識障害失認・失語・失行・実行機能障害などがでてきます。
周辺症状として
妄想・幻覚・不安・依存・徘徊・抑うつ・暴言・暴力・介護拒否・異食・不眠
などがあります。
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭葉側頭葉変性症
など4つの種類にわかれます。
物取られ妄想に対しては、冷静になり患者さんの言い分を否定も肯定もせず対応しましょう。
そして、「一緒に探しましょう」と声掛けして対応しましょう。
また、周辺症状などに対しては、どんな症状でもその行動を頭ごなしに否定せずに一旦受け入れて、落ち着いてから再度働きかけてみるようにしましょう。
認知症の家族を抱えた家族は想像以上に大変なことがたくさんあります。
ここで挙げられた対応方法を行なったとしても、繰り返す同様の行為に介護者も冷静でいられなくてついついキツく当たってしまうということはよくあることです。
そんな状況では患者さんと介護者のお互いのストレスが大きくなったり、関係性が悪化していくこともあるので、なるべく第三者であるケアマネジャーや専門医などの意見を聞くなどをして助けを求めてください。